2016年03月10日

民間企業と行政機関の「官民連携事業」はなぜあんなにもうまくいかないのか。

地方創生がバズワードになり、全国各地で叫ばれています。そんな中、地方創生の名のもとに民間の力を活用した「官民連携事業」というのが増えてきています。しかし、その多くは決してうまくいってるとは言えず、民間も行政も互いに不幸な状況に陥っています。

民間企業と行政機関と両方で働いている経験を持ってる人ってそんなに多くないせいか、「行政と民間で一番違うところはどこですか?」とか「民間から行政に入ってびっくりしたことは何ですか?」みたいな質問をたびたびされます。個人的には官民で転職しあったりするキャリアが一般的になればいいのになー、とか思ってるんですが、(すこしづつ増えてきているとはいえども)実際はまだまだ少ないようです。

民間と行政の違いってどういうところですか? という質問に対しては、「料理の手順の違いみたいなものですよ」って答えるようにしています。 どういうことかと言うと、食材を見て何を作るかを決めるのが民間企業の仕事の進め方。作る料理を決めて、それからスーパーに食材を買いに行くのが行政の仕事の進め方です。現代風に例えると、クックパッドでいきなり料理名で検索するか、冷蔵庫にある食材を入力して料理を探すかの違いですね。

民間企業はじゃがいも、人参、カレールウがあるのを見て、じゃあ、あとは玉ねぎと牛肉を買ってきて、ビーフカレーを作ろう!という意思決定がされます。行政機関の場合、まず「ビーフカレーを作る!」と決めてからスーパーに人参、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉、カレールウを買いに行きます。民間企業の場合は冷蔵庫にある食材をベースに料理をするので、コストは安くなります。しかし、もし鶏肉が特売日で安く販売されていれば、急遽、チキンカレーに変更になることもあります。結果的に安く美味しいものができればいいという考え方です。逆に行政機関の場合は「ビーフカレーを作ろう!」と決め、スーパーに行きレシピにとおりの食材をきちっと買ってきます。もし、牛肉よりも鶏肉の方が安く新鮮であってもチキンカレーに変更せず、牛肉を買います。もし牛肉が売り切れていたとしても、牛肉が入荷されるのを待ちます。その結果、必ずビーフカレーは完成するのですが、すべての食材をイチから買い集めるためコストは高く、すべての食材が揃うのを待つため食材が古くなりがちで、鮮度は落ちてしまいます。 

民間企業は臨機応変にその時その時の状況の変化に対応しながら料理をします。ビーフカレーを作ると言うのは大まかな方向性であり、あくまで最終目的は美味しい料理を安く作ることです。ですので料理の過程で臨機応変に対応し、最終的には美味しい料理を作ることにこだわります。その一方で行政機関の場合はあくまでビーフカレーを作ることは方針ではなく目的なので、必ずビーフカレーを作ることにこだわります。途中で(たとえそちらのほうが美味しく、安くできるとしても)チキンカレーに変更することは許されません。なので食材が全部揃うのに時間がかかっても少々コストが高くついても必ずビーフカレーを完成させます。

このように料理の進め方の違いがある民間企業と行政機関が一緒に仕事をする場合は、お互いの料理の進め方の違いを理解しておかないと必ず揉めることになります。官民連携して「ビーフカレーを作ろう!」とスタートしても、行政機関は料理の食材が完璧に揃える準備からはじめます。予めスーパーに何がおいてあるのかをちゃんと確認して、すべての食材がちゃんと揃うことを確認してから買い物に行きます。対して民間企業は「いやいや、冷蔵庫にじゃがいもと玉ねぎあるから、これ使おうよ」と言っても、行政機関は「いやお金はすでに準備してしまったのでスーパーに行って買う。」と譲りません。途中で新鮮な鶏肉が安く手に入ったり、牛肉が売り切れていたとしても、行政機関にとっては「ビーフカーレー」を作ることが目的なので、チキンカレーに変更してはいけないのです。行政機関からすると民間企業から途中でチキンカレーに変更しよう!という提案をされること自体が驚きなのです。民間企業からすると少しでも美味しいものが作れるので提案したのに、行政機関からすると「ビーフカレーを作ろう」と約束したのに、途中で変えるなんていい加減なやつだ!となります(笑)

民間企業は常に自社のリソース(ヒト、モノ、カネ、ノウハウ、情報など)を最小限に、マーケットに評価される価値の高いモノ、サービスを作ろうとします。しかし、行政の場合は政策があって、それに対して予算なり担当部署なりが決まっていきます。 空き地を活用する場合で言うと、民間企業が主体でやると、土地の状況を見て、その条件下においてどのように開発をすれば利益が最大になるかを考えます。その結果、ショッピングモールや、マンションや、オフィスビルなどが建設されたりします。しかし、行政が主体でやると、子育て施設なり、福祉施設なり、スポーツ公園なり、まず何を作るのかが決まって、それからそれを作るために材料を集め出します。そして必ず計画した通りのものが建設されることになります。

 特に地方創生が叫ばれる昨今、官民連携の大切さが全国で言われているにもかかわらず、ほとんどがうまくいってません。それは両者が相手の仕事の進め方に違いがあることを想定せず、違いがあると気がついてもその進め方を理解しようとせずに、自分たちのやり方を押し通してしまうから、だと思っています。従来の公共事業のような行政が発注者、民間企業が受注者といういわゆる「縦の関係(※あくまでわかりやすい表現として)」であれば、民間企業が行政の仕事の進め方に合わせてあげていました。(その代わり、結構な手間賃が上乗せされてますが) しかしながら、受発注者の関係ではなく、お互いが地域のために仕事をしていこうと水平の関係で官民連携という体制をとった瞬間、この料理の手順の違い問題が表面化します。「ビーフカレーを作る」というのはあくまで、「ビーフカレーのような美味しい料理を安く作る!」という民間企業の認識と、「ビーフカレーと言ったらなんとしてでもビーフカレーを作る!」という行政機関の認識がずれたまま、官民連携の綺麗なお題目のもと仕事をすると必ず、お互いが自分の主張を繰り返し、最終的に喧嘩別れになってしまうのです。そして、行政は遅い、縦割り、コスト意識がないと民間企業が文句を言い、民間は利益ばかり重視し、朝令暮改的でコロコロ変わる、と行政が文句を言うのです。

 というわけで、僕が言いたいのは民間のやり方がいい悪いとか、そういうことでなくて、お互い目的も、意思決定の過程も、ステークホルダーも違う組織ということを前提として、それでもお互いに官民連携事業の目的、趣旨を常にすり合わせをし、相手を尊重して理解しようとする姿勢を互いに持つことが官民連携事業を成功に導くために最も大切なことなんじゃないかな、ということでした。

あー、おなか減った。ビーフカレーでも食べよ。



Posted by たじぃ at 17:50│Comments(2)
この記事へのコメント
うーん。何でそんな違いが生じるのかまで、考えるといいかもしれません。

情勢なんてホイホイ変わるし、偉〜い人は気軽に要求してくるし、ホント融通利かせたい。

民間いたころは、自由に契約出来て楽だったなぁ。

コンペして契約相手が決まった後に仕様がゴロッと変わったら、契約相手にならなかった業者さんは何を思いますかね。裏取引疑ったりしませんかね。

契約の範囲内だったら気軽に修正出来て楽だし、民間の提案も金額が動かなければ、どんどん受け入れるのだけど。

イベントやってるので、変更なんてざらにあるけど、いつも業者さんに無理お願いしたり、追加発注のコンペしたら、今までとは違う業者さんが落としちゃって、何だか非効率だなぁと思いながら作業したり、あの手この手で対応しています。
Posted by うーん at 2016年03月11日 18:27
わかりやすい例えですね。
私は、市役所が事務局をしている協議会の事務局次長をしていますが、収益をいかに増やして、補助金をもらわずに自立できるかを考えています。  また、どのようにすれば、民間の方が協力していただき事がうまく進むかえを考えますが、役所の仕事は、予算をいかにして使うかと思えるような仕事が見当りますね。
Posted by zenzalez at 2016年03月11日 22:37
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
民間企業と行政機関の「官民連携事業」はなぜあんなにもうまくいかないのか。
    コメント(2)